中土佐LOVER
JR土佐久礼駅 おいしいもん小旅
乗換アプリの登場で時刻表をめくる機会が減った。とはいえ今でも時刻表は旅の友である。
列車の発着時刻以外にも様々な情報が満載だからだ。土讃線に揺られながら頁をめくる。
線名の由来は高知と香川の旧国名の頭文字を繋げた、だから土讃線※1。四国の線名にはこのタイプが多い※2。ページの最下部に目を向けると代表的な駅弁が出ている。高知駅―かつおたたき弁当(1300円)、龍馬弁(1050円)※3・・・時刻表を見ているだけで食欲がわいてくる。
10時40分着のあしずり1号※4で土佐久礼駅に降り立つ。久礼坂※5に挑むディーゼルエンジンの音がトンネルの向こうに遠ざかるとホームには突然と静寂が訪れた。
「目を閉じて・・・・何を見よう」※6。
70年代、国鉄のキャンペーン「ディスカバー・ジャパン」のポスターのコピーを思い起こす。50年前の惹句が久礼の佇まいに良く合う。
昼飯までに時間があるので、久礼八幡宮※7にお参りをする。目を開きふと顔を上げるとそこには鰹タタキの絵馬。海の守護神としての八幡さんならでは。振り返ると鳥居の先には太平洋が広がる。
豊潤な海の恩恵を受け、鰹一本釣り漁を生業とする久礼。大正町市場の店先には日戻り※8の新鮮な鰹が並ぶ。タタキと生(地元では鰹の刺身のこと)を一緒に味わえる贅沢な定食をたいらげ腹六分目。
ハランボ串※9に後ろ髪を引かれつつ、お宮さん通りに出ると、食堂の店頭でパックに入った「鰹飯」※10を発見。鰹を甘醤油煮にして煮汁をご飯と混ぜたもの。家庭で残った刺身を工夫したレシピだが冷めても美味しい逸品だ。帰りの汽車※11のお供にもう一パックを仕入れた。
もし土佐久礼に駅弁があったなら「鰹飯」※12かな、と妄想を膨らませる。旅は想像力をかき立てる。
text:キハ55
【注釈】
※1 土讃線、つまり土佐(高知県)と讃岐(香川県)を結ぶ路線名だが、多度津~窪川間が正式な区間。なお高松から多度津は予讃線の一部である。予讃線は伊予と讃岐つまり愛媛と香川を結ぶ路線名である。
※2 予土線は、伊予(愛媛)と土佐(高知)を結ぶ線。若井駅(四万十町)と北宇和島駅(宇和島市)の区間。高徳線は文字通り高松駅(高松市)と徳島駅(徳島市)を結ぶ。
※3 駅弁掲載は現在JTB時刻表のみでJR時刻表は2019年9月で掲載は終了している。なお、高知駅の駅弁記載は、本文にある「かつおたたき弁当」(1300円)「龍馬弁」(1050円)と「三食駅弁」(680円)の3つである。
※4 現在、あしずり1号の使用車両はJR四国の開発による2000系気動車(ディーゼルカー)。曲線でも高速走行が可能な世界初の制御付自然振子式特急気動車であり1989年3月より運用が始まった。現在の振子気動車の主流は2700系で、2000系よりも乗り心地が大幅に改善された。岡山~高知間の「南風」を中心に、一部の「あしずり」でも運用されている。
※5 土佐久礼~影野間は四国内では最も駅間距離が長く10.7kmある。土佐久礼駅の標高は8.3m、影野駅は252mあり、その差は244mで急こう配が続く。鉄道敷設工事も難工事であったため、土佐久礼駅は昭和14年から昭和22年までの8年間、暫定的に土讃線の終着駅だったことがある。
※6 「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンは「日本を発見し、自分自身を再発見する」がコンセプト。大阪万博以降に課題とされた国鉄輸送の拡大に向けたキャンペーンで、広告代理店は電通が請け負った。1970年10月14日(鉄道の日)から始まったキャンペーンで、副題は「美しい日本と私」。川端康成の「美しい日本の私」に似ていることから川端康成にポスターの揮毫を書いてもらっている。なお、このキャンペーンと同時に国鉄の一社提供の番組「遠くへ行きたい」がスタート。旅人は永六輔、そして主題歌も永六輔作詞の「遠くへ行きたい」である。
※7 安和(須崎市)、久礼、上ノ加江(中土佐町)の総鎮守であり、海の守護神として古くから漁業関係者に崇敬されている。そのため、絵馬は「カツオ」や「鰹のタタキ」が飾られている。なお、町内には百以上のカツオの絵馬があるという情報もある。
※8 久礼の日戻り漁のカツオは水揚げされた翌朝、セリにかけられる。ゆえに前日には翌日の取引量の見当がつく。
※9 串焼きポン吉の人気商品。カツオの腹の部分で脂がのった部位。カツオ3キロから40g程度しか取れない希少部位である。これを串焼きにしたハランボ串は通販でも手に入る。→こちら
※10 約30年前、漫画「土佐の一本釣り」で活況となった久礼の漁師のおかあさんが全国向けのイベント用に開発したのが発祥と言われる。久礼大正町市場HP→こちら
※11 汽車と言っても、SL(蒸気機関車)が走っているのではなく、実際には気動車(ディーゼルカー)なのだが、久礼の人は土讃線に乗ることを「汽車に乗る」と言う。
※12 現在、高知駅の駅弁には「焼き鯖寿司」と並び「土佐かつおめし」も存在するが、発祥の地として土佐久礼駅の駅弁開発の際は、ぜひ「秘伝・鰹飯弁当」を実現したいものである。